冬すみれ雑記帳

山を歩いたり、お能を見たり。

文楽4月公演「本朝廿四孝」ほかを見ました

 先日、国立文楽劇場で4月公演の昼の部を見てきました。プログラムは次の通りです。

  本朝廿四孝(ほんちょう にじゅうしこう)

     桔梗原の段
     吉田幸助改め五代目吉田玉助襲名披露口上
     景勝下駄の段
     襲名披露狂言 勘助住家の段

  義経千本桜
     道行初音旅


 吉田幸助改め
五代目吉田玉助さんは50代初めくらいの人形遣いさん。このところ目覚ましい活躍をされるようになってきていました。
 お父さんの吉田玉幸さん(故人)も人形遣いで、その舞台姿を今もよく覚えています。強面の方でしたが、息子さんはお父さんに似なかったのか、柔和な印象の顔立ちです。

 襲名披露の口上には、人形遣いさんばかりが前後2列になって13人座りました。吉田簑二郎さんの司会で、吉田玉男さん、吉田和生さん、桐竹勘十郎さんがお祝いの言葉を述べられました。
 人間国宝で最高格の簑助さんは言葉が不自由(脳梗塞の発作の後遺症)なので、一言も話されませんでした。
 
 簡素で心のこもった襲名披露で、よかったのですが、気になったのは裃の色です。目の覚めるようなピンクなのです。春だからといって、こんな色にしなくてもよかったのになあと思いました。
 いわゆる「どピンク」で、あまり美しく感じられなかったのです。そこだけが残念でした。

 襲名披露狂言
勘助住家の段」で新・吉田玉助さんが横蔵、のちの山本勘助という役の人形を使いました。簑助さん、和生さん、玉男さん、勘十郎さんも出演して、これ以上はないというぐらい、豪華な舞台でした。

 この場面の「前」を豊竹呂太夫が語りました(「後」は呂勢太夫)。人物の行動に謎が多い上に、一見優しそうな男が突然我が子を殺す場面があったりもして、掴みどころがあるようなないような、難しい場面です。

 以前の私ならきっと眠くなってしまっただろうと思うのですが、今回は違いました。呂太夫の語る義太夫にじっと耳を傾けていると、一つの語、一つの音にも深い意味が感じられ、気持ちがぐいぐいと惹きつけられて行くのです。
 我が子を夫に殺された妻の嘆きはお芝居とは思えないほど身に迫ってきました。

 終わってみると、あらすじが込み入っていて、どう考えても納得がいかず、とても不条理なお芝居でした。その不条理さにむしろ現代性があるのかもしれません。

 「道行初音旅」は、舞台正面奥に二段のひな壇を据え、太夫9人と三味線9人が並びました。こんなしつらえは文楽では珍しいものです。口上のときと同じ、ド派手な裃姿でした。

 登場するのは静御前と狐忠信。静御前豊竹咲大夫、忠信を竹本織太夫が語りました。これも不思議でした。咲大夫は現在、ただ一人の切場語り。本来なら、呂太夫が語った場面を咲大夫が語るべきだったのです。
 大人数で語る場面に切場語りが登場するのはとても珍しいこと。その上、咲大夫の声に力がなく、一人で語る部分を最小限にしていたことが気になりました。
 前回、織太夫の襲名披露公演の時にはそこそこ元気なように見えたのですが、また体調が悪化したのでしょうか。

 派手で華やかな道行で幕が降りたにも関わらず、咲太夫さんの様子が気になって、おめでたい気分に浸りきれないのが残念でした。