冬すみれ雑記帳

山を歩いたり、お能を見たり。

絶品でした! 呂太夫師匠の「堀川猿廻しの段」

 昨日、文楽4月公演の第2部を見てきました。演目は「祇園祭礼信仰記」の金閣寺の段と爪先鼠の段、そして「近頃河原の達引(たてひき)」の四条河原の段と堀川猿廻しの段でした。堀川猿廻しの段の「後」を、私が素人弟子として師事している豊竹呂太夫師匠が語られました。

 何年前だったか、師匠が同じ場面を語られるのを聴いたとき、涙ぐんでしまうくらい感動したのを覚えています。それまでにも何度もこの演目を見たことがあり、つまらない、退屈だと思っていたのに、そのとき初めて真価がわかりました。

 またあの語りが聞ける! と期待して足を運んだ甲斐がありました。師匠の「堀川猿廻し」は前回以上に素晴らしく、絶品でした。

 猿廻しをなりわいとする貧しく純朴で文盲の与次郎という人物が主人公です。その喜怒哀楽の表現がいきいきしていて見事です。高齢で盲目の母親や、心ならずも殺人を犯してしまった恋人と心中の決意をする妹、おしゅん。与次郎の二人への切ないまでの愛情がぐいぐいと心に伝わってきます。

 終盤、おしゅんとその恋人を送り出す場面で与次郎が2匹の猿にお祝いの芸をさせます。悲しい場面なのに、与次郎の様子やユーモラスな猿たちの芸を見ていると思わず笑ってしまいます。「祝う」という行為をほがらかにやって見せる与次郎という三枚目の人物がまるで神様のように感じられました。

 三味線はベテランの鶴澤清介さん。猿廻しの場面では若手の鶴澤友之助さんも加わります。ここの三味線の演奏はとりわけ素晴らしい。高度な技巧を駆使した、変化に富んだ面白い曲節には華やかさが感じられて、心が浮き立ちました。

 重い内容なのにほっこりとした笑いが散りばめられた作品です。師匠は「俊寛」のようなシビアな演目も巧みだけれど、こういう喜劇の要素のある作品もお得意なのです。

 暖かくてまっすぐな人間の真情に心が洗われるような気がしました。