冬すみれ雑記帳

山を歩いたり、お能を見たり。

義太夫と能で「小鍛冶」(大槻能楽堂)

Dsc_2006

 31日(金)の夜、大槻能楽堂でろうそく能「小鍛冶」が上演されました。能の「小鍛冶」に先立って素浄瑠璃で同じ演目が上演されるというプログラムです。私の師匠、豊竹呂太夫が語られるので、見に(聞きに)行きました。

 この公演、人気が高くて、チケットは早くに完売したと聞いていました。会場に着くと、見所(客席)には若い女性がいっぱい。ふだん能楽堂に来るのは高齢の方がほとんどなので、びっくりしました。いったい、何が起こったのでしょう。

 はじめに落語家の桂吉坊さんが登場。特別ゲストの近藤隆さんを迎え、トークセッションです。この近藤隆という方、紹介によるとアニメ「刀剣乱舞」(「刀剣女子」を生み出した有名な作品)で小狐丸のキャラクターを担当した声優さんなんだそうです。その紹介を聞いて、納得が行きました。

 けれど、お二人の対話よりも興味深かったのは、能「小鍛冶」の赤頭バージョンと白頭バージョンとで「小鍛冶」のクライマックスの場面が上演されたことです。同じ「小鍛冶」でもシテがかぶる頭(歌舞伎の「連獅子」のような長い毛のかぶりもの)によってシテの性格が変わるのです。地謡が二人、着座し、正面の、いつもは囃子方が座る場所に一人の能楽師が座りました。前に小さな机を置き、実演の間、両手の扇子で机を叩いてお囃子の代わりに拍子を取り、合間に掛け声を入れます(アシライと言うそうです)。この方が、大槻文藏さんでした! なんという贅沢!

 はじめに赤頭のシテが登場。装束が華やかで、頭には狐をかたどった飾りを乗せた冠をかぶっています。狐戴(こたい)というものです。この赤頭は若さを表現するのだそうです。跳躍してくるっと回り、ばん!と着座するという所作が組み込まれ、全体に力強さがみなぎっています。文藏さんの拍子も地謡もテンポが速めです。

 次に白頭のシテが登場。装束は渋くて神々しい取り合わせ。老人を表しているのだそうです。頭には狐戴を乗せているはずなのに、見当たりません。後日調べたところでは、この白頭の外見は「刀剣乱舞」の小狐丸に似せていたのだそうです。拍子も地謡もテンポがやや緩めになり、重々しい雰囲気に包まれました。頭によってシテのキャラクターが変わることは知っていましたが、この実演で比較して見ることができ、とてもわかりやすかった。文藏さんの拍子と掛け声には終始うっとりしてしまいました。思いがけない大ご馳走でした。

 この日の能は「黒頭 別習」という小書(こがき。演出)です。黒頭は霊性の高さを表し、別習が付いていると力量のある能楽師さんにしか勤められないのだそうです。ますます期待が高まります。

 この後、舞台に床が設えられ、二人の能楽師さん(齊藤信輔さんと大槻裕一さん)によって、舞台を取り囲むろうそくに火が灯されました。

Dsc_2005

 一気に幽玄の趣に。義太夫の「小鍛冶」が始まります。