冬すみれ雑記帳

山を歩いたり、お能を見たり。

能「浮舟」「紅葉狩」(京都観世会館)

 山歩きのことを書き終えていませんが、今日観た能「浮舟」「紅葉狩」について、記憶が新しいうちに記しておきます。会場は京都観世会館です。

 プログラムは能「清経」、狂言「腰祈」と続いて、20分の休憩。能「浮舟」、休憩15分。仕舞3曲、能「紅葉狩」でした。私は昨日わりとハードな山歩きをした上に、夜の睡眠時間が短めだったからか、「清経」と「腰祈」はそのあとの休憩も含めて爆睡してしまいました。

 「浮舟」(「彩色」という小書きが付いていました)でやっと目が覚めました。前シテ・里女、後シテ・浮舟を演じるのは橋本こう(手偏に「広」の古い書体)三郎さんです。前にこの方の仕舞を拝見して魅了され、一度お能を観たいとずっと思っていました。

 前シテは小袖の上に墨色の透ける生地の装束を着ています。肩幅が広く、しかも珍しいほどのいかり肩で、ごつい感じがして、失礼ながら女性のようには見えませんでした。

 ところが後シテで白い小袖に変わり、髪も前の方に一部を細く長く垂らし(初めはお下げ髪かと思いました)、残りを後ろで束ねた形で登場すると、たおやかで可憐で、肩もなで肩に見えるし、一体何をどうすればあんなに変われるのか不思議なほどでした。前もって調べる時間がなかったので詞章はよくわからずじまいでしたが、観ているだけで同性でも魅了されるような上品で美しく可愛らしい浮舟でした。

 仕舞3曲の中では味方玄さんが「経正」のキリを舞われたのが勇壮でかっこよかったです。

 「紅葉狩」。「鬼揃」の小書きが付いているのでシテのほかにツレが5人、登場します。前場では上臈の華麗な装束。舞台に6人も並ぶと目がさめるような美しさです。後場では本性を表して鬼女の姿になるので、迫力満点です。シテは林宗一郎さん。6人の中でもひときわ華麗な装束で、前場では袴に大柄の紅葉が散っていました。

 戸隠山で美女たちが木陰に幕を巡らせて紅葉をめでつつ酒宴を開いています。家来を連れて鹿狩りに来ていた維茂(これもち)はこの様子を見かけ、邪魔しないようにそっと避けて通ろうとするのですが、美女たちのリーダー格の女性が袖にすがって引き止めるのです。

 それが絶世の美女だったので、維茂はつい気を許してしまい、美女たちの舞を眺めながら、勧められるままに酒を飲んで眠ってしまいます。家来たちは維茂の弓矢を預かり、姿を消していて、維茂は一人きりです。

 男山八幡がこの様子を見て武内の神を使いに立て、神刀を維茂に与えます。夢に武内の神からの警告を聞いた維茂は目を覚まし、鬼女たちと闘い、勝利をおさめます。斬り組みの場面は短く、あっさりと終わってしまいます。そりゃあ、神様が与えた刀ですから、鬼女をやっつけるのにもたもたしたりはしないのでしょう。

 目の保養になる楽しい曲でした。人気が高いようで、2回席まで満席で、補助席まで出ていました。

 歌舞伎や文楽にも取り入れられている演目です。歌舞伎で見たときは、シテ役は玉三郎。歌舞伎ならでは、玉三郎ならではの贅を尽くした衣装、舞台全体も紅葉尽くしで華麗でした。文楽では紅葉の中に、なぜか中央に青々した松の木が1本。あれは一体何だろうと不思議に思っていましたが、きっと能から採った演目であることを表しているのか、能への敬意を表現しているのでしょう。

 昨日はややハードなコースで5時間くらい山を歩き回り、今日は打って変わって5時間ほどを京都観世会館でじっと座って過ごしました。じっと座っている方が、断然疲れました。