冬すみれ雑記帳

山を歩いたり、お能を見たり。

歌舞伎と能をUチューブで楽しむ

 新型コロナの影響で古典芸能も公演はすべて中止になり、一時は寂しい思いをしていましたが、Uチューブで無料配信されるものが出てきて、楽しませてもらっています。

 昨日は歌舞伎の「スーパー歌舞伎セカンド オグリ」を見ました。主役は市川猿之助中村隼人ダブルキャスト。隼人バージョンは名場面を編集したもの。猿之助のはフルバージョンで、3時間余りの舞台です。はじめ、隼人のを見ましたがやはり若いからか(27歳)、まだ主役には力量不足に思えて途中で止め、猿之助版を見ることにしました。

 スーパー歌舞伎は先代の猿之助の舞台を何度か見たことがあり、本来の歌舞伎とは別物のエンターテインメントだと認識していました。でも、この前「ナウシカ」を見て、今回この「オグリ」を見ると、その境界線は意外と緩やかなものに思えてきました。光線や音響をフルに使い、舞台装置も現代演劇のよう。衣装も古典歌舞伎とはまるで違います。それでも歌舞伎役者さんが演じていると、そこに歌舞伎の味わいが濃厚に感じられるのです。むしろ、古い話(原作は説経節)を今の時代に上演するために現代ならではのトピックや発想を取り入れるなどの工夫を凝らし、時代の変化にも関わらず変わることのない人間の心や生き方のようなものを描き出していて、思いがけないほどの感動を味わいました。

 この舞台はUチューブで無料配信することを前提にして無観客公演を 収録したもののようです。がらんとした客席から拍手もどよめきも起こらず、大向こうさんの「澤瀉屋!」という声かけもない中で、俳優さんたちの途切れない集中力、エネルギッシュな演技に敬意を覚えました。歌舞伎の持つ底力を見た気がしました。

 猿之助は少し太って、声や台詞回しが先代の猿之助(猿翁。今の猿之助の伯父)に似てきました。照手役の新悟は女形にしては決して美貌とは言えないのですが、しばらく見ないうちに見違えるほどうまくなっていて驚きました。隼人は猿之助バージョンでは遊行上人の役で、長身・イケメンが生かされ、立ち姿の美しい上人ぶりでした。

 この配信は残念ながら昨日で終了しました。ほかに第38回俳優祭で上演された「月光姫恋暫(かぐやひめ こいのしばらく)」が配信されています。私は以前、テレビで見たことがあります。俳優祭は歌舞伎役者さんたちがお客への感謝を込めて催されるもので、この演目もおそらく一度限りの上演だったと思います。超豪華な顔ぶれで笑いとサービス精神満載の舞台を見せてくれます。

 能では、大槻能楽堂が4月25日(土)14時から半能「三輪」を大槻文藏さん、半能「葵上」を大槻裕一さんが舞う様子が配信されます。これはTTR能プロジェクトとのコラボ公演です。ほかにも「能楽囃子体験」として小鼓などの打ち方を指導する様子が配信されています。

 Uチューブで「西宮能楽堂」を検索すると、梅若基徳さんの仕舞や以前の公演での解説を視聴することができます。歌舞伎は松竹という会社がやっているし文楽は国立なので少ないとはいえ休演中も給料が出ているようですが、能楽師さんはみな個人営業というかフリーランスというか、後ろ盾がないので、今の状況では生活が大変だろうと想像できます。何とか持ちこたえていただきたいと祈るような気持ちです。