冬すみれ雑記帳

山を歩いたり、お能を見たり。

テレビで見た映画「シャーロック・ホームズ最後の事件」

  ホームズものは怖いことも多いので、どうしようかな? と迷いながら録画したこの映画、秀作でした。2016年に公開された作品だそうです。

 ホームズは93歳(!)。引退して30年になります。地方の緑ゆたかな土地で古い館に住み、病を抱えながら養蜂を趣味として暮らしています。記憶力は衰え、歩行もおぼつかない状態。同居しているのは家政婦とその息子です。家政婦は無学文盲ではありますが仕事はきっちりできるしっかり者。10歳の息子は怜悧で、ホームズのお気に入りです。

 30年前、ホームズが引退するきっかけになった事件がありました。相棒のワトソン(すでに亡くなっています)が書いた記録があるのですが、ホームズはそれを「事実と違う」と考えています。ワトソンが自分を傷つけないように書いたのだと。

 ホームズはその事件の全容を自分で書きたいのですが、記憶力の衰えた頭ではなかなか思い出せません。それでも、少年の励ましもあって、1枚の古い写真を手がかりに少しずつ記憶を手繰り寄せて行きます。やがてその事件の全容と結末が明らかに…。一方、家政婦は気難しく世話のしにくいホームズを見限って、遠方に職を求めようと行動し始めます。

 ホームズの90代の今と30年前の回想シーンを行き来しながら物語が進んで行きます。

 ラストでホームズはこれまで貫いて来た自分の生き方は正しかったのかと自問するに至ります。そのきっかけを与えるのは二人の女性です。最晩年になってこんな思いを抱くのはホームズにはとても辛いことでしょうが、見ていてそれほど辛そうには感じられません。その訳は、ネタバレになってしまうので書けませんが…。家政婦がどうしてホームズに対してそっけない態度で接してきたのかも、見終わってからよく理解できました。

 ホームズを演じたのはイアン・マッケラン。ネットで調べたら、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズでアカデミー賞にノミネートされた俳優さんだそうですが、私はそのシリーズを見ていないので、今まで知らなかった人でした。監督はビル・コンドン。こちらも調べてみると、多数の作品を送り出している人でした。その中で私が見た映画は「シカゴ」(02年、脚本を担当)「ドリーム・ガールズ」(06年、監督)。女性を描くのが上手な人だという気がします。

 一連の「ホームズもの」とはまったく異なる映画でした。老いと向き合うホームズがとても人間的に感じられ、切ないほど共感できました。緑に覆われた風景、古い館、海で遊ぶホームズと少年。30年前の世界(日本を訪れる場面もあります。真田広之が重要な役を演じています)。どれもとても美しい。映画館のスクリーンで見たらどんなにきれいだったろうと思うと、見逃したのが残念です。リバイバル上映があれば、ぜひ映画館で見たい映画です。