冬すみれ雑記帳

山を歩いたり、お能を見たり。

能「鶴亀」(京都観世会館1月例会)

  「翁」に続いて「鶴亀」が上演されました。題からわかるとおり、祝儀の曲です。あらすじと解説を当日のチラシからお借りします。

 新春、中国の王宮では群臣が皇帝の前に集い、節会が行われる。まず官人が口開きをし、荘重な囃子(真之来序)で皇帝が現れ、玉座に座る。臣下がめでたさを讃えると、鶴と亀が現れ、皇帝に長寿を捧げる。皇帝も御感の余り、自ら舞を舞い、輿に乗って長生殿に還御となる。

 「翁」に続く脇能は、「高砂」のように神が姿を現す曲が多いが、この「鶴亀」は、「西王母」や「東方朔」と同様、大宮の中の皇帝のもとに、鶴と亀とが現れ、祝福を与える形をとる。芸態的に古いものと思われる。

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 シテ(皇帝)は大江又三郎さん。高齢で大柄の能楽師さんで、威厳が感じられます。シテには珍しく直面(ひためん。面を着けない状態)なのですが、違和感なく拝見できました。鶴(宮本茂樹さん)は黒頭、朱の大口(袴)、小豆色地に草花文様の小袖(かな?装束の名前はまだ正確に知りません)。亀(松野浩行さん)は白頭、白い大口、白地に金?銀かな?で文様を織り出した小袖。面は鶴は若い女性で亀は老女。全体の様子からも鶴は若い女性、亀は老女を表しているようです。二人が相舞する場面はとりわけきれいでした。

 ワキの大臣は福王和幸さん。小顔で長身のイケメンです。この方が登場すると私はいつも「9頭身?10頭身かな?」などと考えてしまいます。装束は白い大口、黒地に金で松竹梅を織り出した直垂?直衣? 大きな袖の縁には赤い紐が通っていて、鮮やかなアクセントになっています。襟元にもちらりと赤い色が見えて、惚れ惚れするほどセンスの良い颯爽とした出で立ちでした。ワキツレ(従臣)のお二人は高齢の方々で二人同じ装束でした。

 囃子方は、「翁」が終わったとき小鼓の脇のお二人が退場されました。太鼓の井上啓介さんは「翁」の間ずっと大鼓のやや後ろで隠れるように控えておられ、演奏がなかったのですが、この曲でお囃子に加わりました。地謡の8人の方々は「翁」では舞台正面、囃子方の奥に並んでいましたが、この曲で常の地謡の座に移動されました。地謡囃子方の奥に並ぶのは「翁」だけの決まりなのです。

 初めて見たこの「鶴亀」、わかりやすい内容で目にも耳にも心地良く、幸せな気分にさせていただきました。

 この後、狂言「筑紫奥」。3人の登場人物(茂山あきらさん、茂山千五郎さん、茂山七五三さん)が正面に並んで大笑いをするラストはまさに「笑う門には福来る」です。私も思わず笑顔になりました。とりわけ茂山七五三さんはそれまでほとんどずっと仏頂面をしている役なので、ここでの笑顔がいっそう引き立って見えました。これ以上はないと思えるほどの満面の笑顔から「福」をいただいた気がします。

 休憩を挟んで能「葛城(かづらき)」です。次の記事に続きます。