冬すみれ雑記帳

山を歩いたり、お能を見たり。

能「葛城」大和舞 その2(京都観世会館1月例会)

 後見が1m弱四方の台の四隅に柱を立てて幕で覆ったもの(「山」というらしいです)を舞台中央、小鼓方・大鼓方の前あたりに運び出します。幕は白で、屋根もわただったか、白いもので覆われています。雪を表しているのです。

 前シテは白い唐織を壺折りにした装束で橋掛りに登場します。白い笠もかぶっています。作り物の白とシテの装束の白とが、雪が深く降り積もって白一色に覆われた風景をイメージさせてくれます。壺折りの下からのぞく小袖(?)に目が吸い寄せられました。地の色が、橋掛りでは灰色がかった紫に見えて、渋い美しさだったのです。舞台に進むと、緑がかったグレーに見えて、これもきれいでした。色が変わって見えるのは光線の加減でしょう。雪持ち笹の文様も見事です。

 シテを演じたのは観世清和さん。観世流のご宗家です。この方はいつも装束が豪華で目の保養になります。能の五流派はどちらも古い家柄ですが、中でも今一番隆盛しているのは観世流。ご先祖から受け継いだ装束や、当代で新調なさったものなど、装束類をたくさん所蔵しておられるのでしょう。

 ワキの山伏は福王茂十郎さん。昨年、文化功労者に認定されました。私が拝見するのは昨年1月、同じ京都観世会館で上演された「羽衣」以来かもしれません。子息、それも和幸さんの弟さんの知登(ともたか)さんを拝見する機会が多かったです。

 中入でシテは作り物の中に入り、装束を着替えます。後見の林宗一郎さんが手伝っておられましたが、狭い「山」の中で短い時間で装束を替えるのは、それ自体が鍛え上げた技術の一つなのでしょう。

 後シテの装束は、黄色系の淡い地色に雅楽器を散らしたもの。天冠には赤く色づいた蔦が飾られています。この姿もとてもきれいでした。面は前・後ともに美しい女性を表すもので、「醜い容貌」を思わせる要素はまったく見られません。舞姿も優雅。うっとり惚れ惚れと見とれてしまいました。

 囃子方の顔ぶれも豪華。大鼓は河村大さん。小鼓は大倉源次郎さん。太鼓、前川光長さん、笛、杉市和さんでした。話の細部にこだわるのをやめて、美の世界に浸りました。

 休憩を挟んで仕舞「難波」林宗一郎さん、「屋島」杉浦豊彦さん。最後の演目は能「小鍛冶」でした。「小鍛冶」については以前書きましたので省きます。

 能を見るとき、なかなかその世界に入っていけず、心に触れるものを感じ取れないうちに終わってしまうこともよくあります。この日は大好きな「翁」から始まったからか、終始、舞台上の世界に気持ちがすっと溶け込んで行きました。耳に心地よく響く日本語の言葉、謡とお囃子の音楽、両方のシャワーを全身に浴びた気がしました。

 なぜかときどきお香のかぐわしい香りが舞台から漂ってきました。演者の装束にたきしめられていたのか、鏡の間でお香をたいていてそれが装束や髪に染み込んだのか、よくわかりません。

 今月はあと1回、お能を拝見します。文楽の初春公演は昨日、第2部を見て、後日、第3部を見に行きます。コロナ対策で、今は3部制をとっているのです。1月は古典芸能三昧の月になりそうです。