冬すみれ雑記帳

山を歩いたり、お能を見たり。

夏シーズンの連続ドラマあれこれ

 このシーズン、毎週見ていたドラマの数は今までで一番多かったかもしれません。

 当初あまり期待していなかったのに意外と良かったのは「石子と羽男」。いわゆる「バディもの」で、バディを組む二人の両方が屈折しているという、よくある(かもしれない)パターンでした。でも、二人の「屈折」の背景がわりとしっかり描かれていて共感できました。サブタイトルの「そんなコトで訴えます?」は内容に合っていない気がしました。

 バディ同士で恋に落ちるわけではなくて、もう一人の人物(「大庭」という石子の後輩)が石子と交際することになるのも良かった。男女の登場人物を何でもかでもくっつけちゃうドラマには食傷気味なんです。朝ドラはこのパターンですよね。

 石子=有村架純、羽男=中村倫也、大庭=赤楚衛二。脚本は西田征史。ネット情報では、プロデューサー=新井順子、ディレクター=塚原あゆ子という女性コンビがヒットメーカーらしいです。

 坂元裕二脚本の「初恋の悪魔」。刑事だけど休職中の林遣都、警察の総務課勤務の仲野太賀、警察の生活安全課勤務の松岡茉優、警察の会計課職員の柄本佑(役柄名はキラキラネームで書きにくいので省略)。捜査権を持たない4人の男女が仮想現実空間に入り込んで犯人を見つけ出す、という話がドラマが始まってから何回か続いたので、このパターンでずっと進むドラマなのかなと思っていたらとんでもなかった。

 仲野太賀の兄(刑事。毎熊克哉)が捜査中に自殺していて、署長の伊藤英明が「あいつは自殺なんかするやつじゃない、きっと誰かに殺されたんだ」と仲野太賀に告げるのが後半への伏線になっていました。不可解な連続殺人、シリアルキラー、多重人格、貧困。そして友情、初恋の相手がいなくなること。

 終わってみれば、なんともマニアックなドラマでもありました。マニアックなドラマを楽しみ尽くすには記憶力が欠かせないのに、残念ながら今の私はそれが衰えています。ある人物がある人物に言う印象的なセリフと同じセリフを、前にどのシーンで誰が誰に向かって言ったのか、それを覚えていない。まったく残念。

 安田顕の怪優ぶりが痛快でした。この俳優さん、最近よく活躍しています。あと、菅生新樹という新人俳優の演技が鮮烈。菅田将暉の弟だそうです。これからどんどんドラマに出てくることでしょう。

 最終回の最後近くで林遣都松岡茉優が語るセリフに坂元裕二がこのドラマにこめたメッセージが感じられました。長くなりますが書いておきます。

 林遣都「世界中たくさんの暴力があるし悲しいことがあって、僕が生きているうちにそれがなくなることはないかもなと思います。でもね、人にできることって耳かき1杯ぐらいのことなのかもしれないけど、いつか暴力や悲しみが消えたとき、そこには僕の耳かき1杯も含まれてると思うんです。大事なことは、世の中は良くなってるって信じることだって。」

 松岡茉優「仲良くなれる人って、いて当たり前じゃないと思うんです。今いなくていいんだと思うんです。今ここにいなくても、別のところにいるかもしれない。大事なのはちゃんと自分のままでいることだなって。」

 「家庭教師のトラコ」は遊川和彦の脚本。この人らしい毒のあるセリフ満載でしたが、最終回はやたらと丸くおさまってしまって、なんだか拍子抜けでした。

 「ユニコーンに乗って」。これも意外と楽しめる作品でした。西島秀俊がトクな役回り。役名の「小鳥」が「初恋の悪魔」で柄本佑が演じた役と同じだったのが妙に気になりました。「魔法のリノベ」も良かった。波瑠という俳優さんは、朝ドラ「あさが来た」以来、気に入っています。ただ、リノベってほんとに魔法なの? そんなに生活が変わるもの? という現実的な疑問が残ってしまいました。

 「プリズム」。浅野妙子の脚本(途中から原作)。朝ドラ「純情きらり」を書いた人です。主人公の皐月(杉咲花)の父親(吉田栄作。年取ったなあ)は妻子を捨てて家を出て、今は男性のパートナー(岡田義徳)と暮らしています。皐月の母親(若村麻由美。「おちょやん」「派遣占い師アタル」でも杉咲花と組んでいました)は自分と娘を裏切った夫が許せません。皐月は父のパートナーと会って、父親たちの関係を受け入れられるようになります。

 皐月は声優を目指していましたがうまくいかず、バイト先の園芸店で知り合ったガーデンデザイナーの陸(藤原季節。この俳優さん、初めて見ました)に恋をします。陸も皐月を愛し、二人は交際するのですが、一方、陸には忘れられない男性(森山未來)がいて…。

 ややこしいドラマでした。途中、しんどくなって、見るのをやめようと思ったくらい。複雑な感情を3人の俳優さんがきめ細かく演じているのが見どころでした。矢島健一が「トラコ」と「プリズム」の両方で頑なな考えに凝り固まった人物を演じていました。

 「拾われた男」は4回目までは最高!と思っていたのに、その後は平凡でがっかり。主人公(こちらも仲野太賀)は俳優を志し、さまざまな出会いを経て役をつかんでいきます。前半はよくできたサクセスストーリーでした。

 後半、渡米したまま音信不通になっていた兄(草彅剛)が脳血管障害で倒れたという知らせが届きます。半身不随になった兄を日本へ連れて帰ると両親はとても喜び、二人で兄を介護する…という展開になるのですが、いくら痩せているとは言っても若い男性の重い体を、年老いた両親が世話するなんて大変過ぎます! 非現実的! 美談過ぎてついていけませんでした。

 なぜだか兄はしばらくして亡くなってしまいます。そのとき両親はほっとしたんじゃないかな、と想像しました。幼い頃からの兄との葛藤が後半の軸になっていて、最終回はその部分で盛り上げていましたが、見ている私はちっとも盛り上がりませんでした。「家族っていいものだよ、家族を大事にしよう」と押し付けてくる気がしました。私自身は家族に恵まれ、家族を大事にしていますが、家族が原因で苦しんでいる人も世の中にはたくさんいるのです。「何がなんでも家族は大事」説を唱えるのはやめてほしいです。朝ドラを見ていてもいつも違和感を覚えるポイントです。

 でも、父親を演じた風間杜夫はすごくうまかったです。母親役の石野真子も、初めはぎこちなかったけれど、回を重ねるにつれて「大阪(尼崎市なので、ホントは兵庫県ですが)のおかん」役になじんで見えました。

 仲野太賀も草彅剛も英会話をちゃんとこなしていたのには感心しました。草彅剛は韓国語をマスターしたこともありますから、語学の才能があるのかもしれません。仲野太賀は「初恋の悪魔」でも林遣都に次ぐ準主役だし、2本のドラマの収録が重なった時は忙しかったことでしょう。

 「競争の番人」。公正取引委員会の仕事にスポットを当てたのは良かったけれど、坂口健太郎一人がエエカッコするのがつまらなくて、途中で見るのをやめてしまいました。

 「個人差あります」は、「異性化」という現象が起きて、ある日突然、夫の体が女性になるというもの。最初2回ほど見て、あまりにぶっ飛んだ設定に引いてしまい、見るのをやめてしまいました。だけどまた気になって、最後の2回を見ました。夫(男性だったときは白洲迅、女性になってからは夏菜)が妻(新川結愛)について何もわかろうとしていなかったことに気づいたり、夫婦の双方が「好きという気持ちが確かなら男性でも女性でもいい」と悟ったりするのは良かったかも。だけど、見ていてとにかくややこしや〜、なドラマでした。

 海外ドラマの「アストリッドとラファエル」はまだ放送中です。1回目が抜群に面白かったのに比べると、2回目からあとは平凡な気がしますが、日本のドラマと違って男女の役割分担意識が固定化されていないところに軽やかさを覚えます。