冬すみれ雑記帳

山を歩いたり、お能を見たり。

能「清経」、「葵上」などを見ました

 23日(祝日)、大槻能楽堂へ。「大槻文蔵 裕一の会」を見ました。大槻秀夫さん(文蔵さんのお父さん)の二十七回忌追善公演だそうで、約4時間みっちり、顔ぶれも豪華でした。

 まず、能「清経」。シテは大槻文蔵(人間国宝、以下、「さん」を省略します)。
 2月に京都観世会館で梅若玄祥人間国宝)の舞台を見ました。その時、なぜかこの曲の世界に入っていけなかったので、今回はリベンジ! のはずでしたが、またもやうまくいきませんでした。大好きな大槻文蔵さんだから、今回は大丈夫、と思っていたのに。なんでかなあ。

 ただ、「恋之音取(こいのねとり)」の部分にはうっとり。笛の奏者(藤田六郎兵衛)が常の座より前に出て、揚げ幕に向かって座ります。そして長く笛を吹いては、間をたっぷり取り、また笛を吹きます。やがてシテ…清経の亡霊が現れ、少しずつ橋掛かりを進みます。
 笛の名手だった清経が笛の音に引かれて幽界からやってくるという演出。文蔵がまとう空気感が透明で張り詰めていて、ゾクゾクしました。素晴らしい小書(特殊演出)です。

 ワキは福王茂十郎。大鼓は亀井忠雄(人間国宝)、小鼓は大倉源次郎(人間国宝)でした。

 休憩を挟んで、仕舞二曲。「花月」を観世三郎太(観世清和の子息。ハイティーンです)。「天鼓」を観世淳夫(あつお。銕之丞の子息。20代)。
 伝統芸能の家に生まれると、大変ですね。皆が皆、家の仕事を継ぐわけではないでしょうが。

 狂言「二千石(じせんせき)」、野村萬斎。不覚にもここで眠くなってしまい、よくわからないままに終わりました。

 舞囃子「融(とおる)」、観世銕之丞。いつもながらバリトンの深い声です。この曲は能で見てみたいとずっと思っています。

 一調一声、「玉葛」、梅若玄祥。能では体ばかり見ていましたが、この方、声も素晴らしいとやっと気がつきました。

 一調、「勧進帳」、観世清和。歌舞伎や文楽の「勧進帳」で弁慶が偽の巻物を取り出して読み上げる部分の謡でした。何度も見ているのでおおよそは覚えているし、観世清和は発声が明瞭なのでとてもわかりやすい。迫力たっぷりでした。

 休憩を挟んで、能「葵上」。若い頃に一度見たきりです。舞台正面に小袖を置き、それが葵の上を表すという演出が驚きで、印象に残っています。
 この日はシテが大槻裕一(文蔵の芸養子)、横川小聖が福王知登(ともたか、福王茂十郎の次男)、下人が野村太一郎(野村萬の孫)と、若い能楽師が大活躍。
 太鼓が三島元太郎(人間国宝)、大鼓が亀井広忠ですが、小鼓の成田奏と笛の杉信太朗は若い人でした。

 能は人間国宝級の能楽師さんの舞台を選んで見ていますが、若い人たちが熱演する舞台も見応えがありました。
 前半で六条御息所の悲しみがそくそくと伝わってきたので、般若の面をつけて横川小聖とたたかう後半に厚みが出ました。大槻裕一、なかなか筋の良い能楽師さんです。

 この日、客席は満席でした。この会があるから、18日の「松山天狗」は入りがよくなかったんですね。両方とも「見ておかなくちゃ」と思った私は経済観念に問題あり、です。