冬すみれ雑記帳

山を歩いたり、お能を見たり。

テレビで見た能「道成寺」(観世能楽堂)

 11月12日(日)に大槻能楽堂で能「道成寺」を見ました。そのことを書く前に、少し前にテレビで見た「道成寺」について記しておきます。

 10月29日のEテレ「古典芸能への招待」という枠で放送されたものです。内容は6月18日に東京の観世能楽堂で行われた「第一回 清門別会」という公演の録画でした。観世流の家元の子息、つまり次の家元になる予定の観世三郎太さん(24歳)が「道成寺」をひらきました(初演しました)。素顔の三郎太さんは甘いマスクのイケメンさん。目尻が下がり気味なので、人の良さそうな印象です。

 家元の観世清和さんは小柄ですが三郎太さんは長身で、能舞台が狭く感じられました。動きがダイナミックで若さが溢れています。力が入り過ぎている感じもしましたが、初演なのですから仕方ないですね。声がとても力強いです。

 ワキ(道成寺の住僧)は文化功労者の福王茂十郎さんで、ワキツレ(従僧)は福王和幸、知登のこれもイケメン兄弟。アイの能力(のうりき。寺男)は野村萬斎、野村裕基の親子。なんとも豪華なキャスティングでした。

 小鼓は大倉源次郎さん(人間国宝)。「乱拍子」のシテと小鼓のやりとりが息を飲むほどの緊迫感でした。源次郎さんは掛け声も表情も凄まじかったです。大鼓は亀井広忠さん。宗家の嗣子が「道成寺」をひらくという特別な公演では、やはり小鼓は大倉源次郎さん、大鼓は亀井広忠さんなんだと、納得しました。

 広忠さんのお父さん、亀井忠雄さんは人間国宝でしたが6月に亡くなられました。番組中、公演前のインタビューで三郎太さんが「道成寺は亀井先生に最後に稽古をつけていただいた曲で、そのとき最後に『お前ならできるぞ』と言っていただきました。そのことばを励みに頑張りました」と語っていたのが心に残りました(注;シテ方能楽師は謡と仕舞だけでなくお囃子の稽古も必須なのです。たいへん〜)。

 公演前で緊張しているはずなのに、三郎太さんの話しぶりはとても落ち着いていて、言葉選びも正確で丁寧で、器の大きさが感じられました。

 そして笛は杉信太朗さん! 家元のスギシンさんへの評価が高いのでしょう。若いのに、やっぱりスギシンさんはすごい。スギシンさんの笛で能が始まり、ワキとワキツレ、アイが橋がかりから登場します。スギシンさんの笛には幕開けにふさわしい神聖さが感じられました。乱拍子の合間にもスギシンさんの鋭い笛が入り、異世界に連れて行かれる気分でした。

 太鼓の林雄一郎さんは私の知らない方でした。地謡観世銕之丞さん、観世喜正さん。ほかは私の知らない方でした。

 演能に先立って狂言方の若手の方々が鐘を運び出して、鐘を吊る縄を天井の杭に通します。これがなかなか難しいのですが、1回でうまくできたのが縁起の良いことに思われました。ひょっとしたら、本当はもっと時間がかかったのを編集したのかもしれませんけどね。狂言方の鐘を吊ったり最後に下ろしたりする動作もすべて型に沿って行われるので、見ていて美しいです。

 テレビで「道成寺」が見られるなんて思いもよらなかったことですし、見てみたら中身がすごくて圧倒されました。この録画は当分、消せそうにありません。