冬すみれ雑記帳

山を歩いたり、お能を見たり。

「道成寺」(大槻文藏裕一の会 大槻秀夫三十三回忌追善公演)つづき

  この日のプログラムの最後が「道成寺」です。シテを務めたのは大槻裕一さん(26歳)。大槻文藏さんの芸養子です。「道成寺」はもちろん初演。つまり、先日テレビで放送された観世三郎太さんと同じく「披き(ひらき)」なのです。

 出演者の顔ぶれはとても豪華でした。ワキ(道成寺の住職)は福王茂十郎さん。の予定でしたが休演で、ツレ(従僧)のはずだったご長男の和幸さんが代演。ワキツレは喜多雅人さんと、もう一人、私の知らない人でした。

 アイの能力(のうりき。寺男)は三郎太さんの時と同じ野村萬斎・裕基親子。大鼓と小鼓も三郎太さんの時と同じ亀井広忠さんと大倉源次郎さん。太鼓は小寺真佐人さん。笛は竹市学さん。地謡観世銕之丞さん、観世淳夫さん、林宗一郎さんほか。後見は観世清和さん、三郎太さん、そして大槻文蔵さん。

 鐘後見という、終盤で鐘の上げ下ろしをする役の主担当(と言うのかどうかわかりませんが)は赤松禎友さん(文藏さんの一番弟子で裕一さんの実父)、補助役に水田雄晤さん、武富康之さん、上野雄三さん、山田薫さん。開演前に鐘を吊り、終演後に片付ける狂言後見は野村太一郎、内藤連、中村修一、飯田豪の皆さんでした。大槻家の後継者が「道成寺」を披くことが、宗家の後継者の場合とさほど変わらないくらいの大事なイベントだということが伝わってきました。

 これまで裕一さんが女性を演じると、役柄本来のキャラクターより可愛らしく見えることがあって、若いからかなあと思っていました。「道成寺」ではまったく雰囲気が変わり、大人の女性、実体は大蛇の妖艶な美しさや不気味さ、悲しさまでもが伝わってきました。初演にしては見事でした。大倉源次郎さんはじめ囃子方の皆さんも素晴らしく、地謡も良くて、見終わった後どっしりした感動が残りました。

 ただ一つ残念だったのは、地謡のメンバーの中の若い方が一人、やけに派手な水色のかみしもをつけていたこと。しかもその人が地謡8人の前列一番手前に座っているので、嫌でも目に入ってくるのです。

 シテとワキのほかはどなたも渋めの色合いのかみしもでシテやワキの存在を際立たせていて、舞台全体の調和が取れて美しかったのに、この人だけがその調和を破っていました。地謡は舞台を支える役割なので、目立ちすぎては良くないのです。どういう色のかみしもをつけるのがその日の上演にふさわしいか、よく考えてもらいたいものです。