冬すみれ雑記帳

山を歩いたり、お能を見たり。

能「一角仙人」

 「一角仙人」のあらすじを当日のチラシから転載します(適宜、表記を変え、改行しています)。

  インド波羅那(はらな)国の傍らに、鹿の胎内より生まれ額に一本の角が生えている一角仙人という名の仙人がいました。

 ある時仙人は龍神を神通力で岩屋の内へ封じ込めてしまいます。すると雨が降らなくなり、困った帝は絶世の美人、旋陀夫人(せんだぶにん)を旅人に仕立て、偶然を装い仙境に送り込みます。

 はじめは追い返そうとする仙人でしたが、旋陀夫人の色香に迷い、酒を勧められ、旋陀夫人の舞に心奪われ舞い始めます。
 やがて酔いが回り仙人はそのまま眠ってしまいます。旋陀夫人は喜んで都に帰っていきます。

 すると神通力が解け、岩屋が鳴動し龍神たちが姿を現します。仙人は驚き騒ぎ剣を手に立ち向かいます。龍神たちが必死で応戦しますと仙人は力尽きてしまいます。龍神たちは喜び勇み雷電を天地に轟かせ大雨を降らせ、白波に乗り竜宮へ帰って行きます。

・・・・・・・・・・ここまで・・・・・・・・・・・

 前もってこのあらすじを読んだとき、歌舞伎の「鳴神」と同じ話だとわかりました。もちろん能が先行して、のちに歌舞伎化されたのです。
 「鳴神」は何度か見たことがあるので、比較しながら見ることができ、楽しめました。

 まず最初に作り物が三つも運び込まれることに驚きました。舞台の正面に一畳台。その上にやたらと大きな青い鐘のような形をしたものが置かれます。最後に引き回し幕で覆われた山がワキ座のあたりに置かれます。

 ワキ(帝の家来)が旋陀夫人を伴って登場し、庵を見つけます。庵からシテ(一角仙人)が現れます。黒っぽい地味な装束です。後見がワキ座の山の引き回し幕を下ろし、中からシテの登場となるのです。シテがワキ座に置かれた作り物から出てくるなんて、意外でした。

 旋陀夫人が美しく舞うと、一角仙人もつられるようにして舞い始めます。仙人は舞ったことがないので、旋陀夫人の真似をするようにして、少し遅れて、ややぎごちなく舞います。その様子がちょっと滑稽です。

 旋陀夫人はあっさりと退場してしまい、かと思うと正面の作り物がガバッと半分に割れて(桃太郎の桃みたいに)、二人の龍神が飛び出します。赤頭(あかがしら。歌舞伎の「連獅子」のような赤くて長い毛の被り物)に龍戴(りゅうだい。龍をかたどった飾りを頭に乗せる)。金をふんだんに使った豪華な装束です。

 仙人は老人で、しかも旋陀夫人によってパワーを失っているのに対して、龍神たちは若者のようで、元気いっぱい。激しい動きを見せます。斬り合いを繰り広げますが、案の定、仙人は負けてしまい、退場します。
 龍神たちが退場し、最後の一人が橋掛かりの幕のきわで留拍子を踏みます。

 わかりやすく、視覚的にも楽しめる曲でした。それにしても一角仙人、弱すぎ!
 歌舞伎では一角仙人は鳴神上人、旋陀夫人は雲絶間(くものたえま)姫という名前です。舞台奥の滝に龍神が閉じ込められているという設定で、雲絶間姫は鳴神上人が酒に酔って眠り込んだ隙に、滝に張り渡された結界のしめ飾りを切り落とします。
 すると龍神が解放されて空へ飛んでいくのですが、そのことは光と音で表現されます。
 能よりも雲絶間姫のしどころが多く、華やかさが盛り上がるのが特徴かもしれません。

 湊川神社能楽堂へは久しぶりに行きました。能舞台の広さは一定だと思うのに、なぜか広く見えます。天井が高くて、暖房が効きにくいのか、足元が冷えました。スタッフの女性がひざ掛けを配っていたので、それを借りました。
 午後の公演だったので着物を着ようかなと考えていたのですが、ひどく寒く、少し風邪気味だったので断念しました。