冬すみれ雑記帳

山を歩いたり、お能を見たり。

濃密だったドラマ「昭和元禄落語心中」

 NHKの連続ドラマ(全10回)「昭和元禄落語心中」が先日、終わりました。このドラマ、内容が濃密で見応えたっぷりでした。
 物語の時代は昭和の戦前から平成まで。名人・八雲という落語家の10代から70代までを中心に据えて、彼を取り巻く人物像を描いていました。

 全部で20作近い噺が演じられます。どれもがストーリーの中にぴったりはまって、見事な効果を上げていました。中でも「死神」「野ざらし」「明烏(あけがらす)」「芝浜」の使われ方が印象的でした。

 八雲を演じたのは岡田将生。いくつ落語を演じたか、数えてはいないのですが、大変な数です。
 それだけの噺をひととおり覚えるだけでも苦労でしょうに、それをプロの落語家が演じているように見えるレベルにまで磨き上げなければいけないのです。
 しかも、ここが一番大事なのですが、演じている人物のキャラクターやそのときの年齢、感情などを表現しながら語ることが求められます。
 この難題をかなり高い水準まで達成していたところ、岡田将生は素晴らしかったです。

 ただ、この俳優さんは、顔が整いすぎているのが逆に損だなと感じました。役柄に味わいが出にくいというのか…。長身で顔が驚くほど小さいので、着物姿にちょっと違和感を覚えたりもしました。
 老け役は、特殊メイクを施してもやはり難しい部分があったようです。逆に、若い頃を演じているときはいきいきして見えました。

 八雲の親友でライバル、天才肌の落語家・助六を演じたのは山崎育三郎です。この人が実に良かった! 過不足なく助六そのものに見えました。
 ミュージカル俳優で、実際、とても歌がうまいことは前に放送されていたEテレのカラオケ講座で知っていたけれど、舞台を見たことがないので、ここまで表現力豊かな人だとは知りませんでした。
 とはいえ、助六役は若いときだけを演じればいいので、その点では岡田将生よりハードルが低かったでしょう。

 芸者・みよ吉役の大政絢も印象的でした。目や口が大きくて、ぜんぜん昭和じゃない美貌。大輪の百合のような華やかさ、色っぽさがなんとも言えません。
今までドラマではあまり見かけなかったたことが不思議なほどでした。

 物語の展開が起伏に富んでいて、毎回、終始息を飲むようにして見ていました。最終回だけは、ちょっと残念でした。説明がくどすぎ。もう少し余韻を残してほしかったです。
 謎めいたところが魅力だった八雲の人物像も、最終回では後半、急にわかりやすくなってしまってつまらなかったです。9回目まではほとんどパーフェクトだったのに。

 原作は雲田はるこのマンガ。大ヒット作なのだそうです。原作に忠実にドラマ化したので、原作ファンにも支持されているらしいです。
 落語の世界に材を取って、こんなに深く濃密な物語を創作できるとは、奇跡のようです。きっと、よほど落語愛の熱い漫画家さんなのでしょう。
 原作を読んでみたいのですが、買うのは気が進まないです。家にある本の数を増やしたくないですから。最近はレンタルのコミックというものをあまり見かけません。どこへ行けば読めるかなあ。

 脚本は羽原大介、音楽は村松崇継、主題歌はゆずが歌っていました。再放送のさらに再放送があれば、もう一度見たいです。