冬すみれ雑記帳

山を歩いたり、お能を見たり。

義太夫の「リモート稽古」

 素人弟子として豊竹呂太夫師匠に教えていただいている義太夫も、今年で10年目。毎年、「絵本太功記十段目 尼ヶ崎の段」の一部分をお稽古して、夏の発表会ではお客様の前で語ってきました。

 ところが、私にとって10年目の節となる発表会を目指してお稽古に励むこの時期に、新型コロナが! 毎日カルチャーでの月に一度の義太夫教室は中止になり、国立文楽劇場の近くにあるお稽古場でのマンツーマンのお稽古もしていただけなくなってしまいました。

 そこで師匠が(実務はパソコン関係に堪能なお弟子さんが)始められたのが「リモート稽古」です。Zoomというソフトを使い、パソコンやスマホで師匠と弟子がお互いの顔を見ながらお稽古するのです。このとき、ほかの弟子も見学することができます。

 私は初めての経験なので、ほかの方のお稽古をおそるおそる見学させていただくところから始めました。「のぞき見」感覚で見ていたのですが、私が参加していることは画面の上でわかるのです。私がマイクとカメラを切った状態にしていても、登録した名前が表示されるからです。

 初めて顔を見せたので、お稽古が終わったとき師匠が声をかけてくださり、急いでマイクとカメラをonにしたところ、画面に映った自分の姿のひどさに我ながら唖然としてしまいました。普段、家にいるときのままのくたびれた服を着て、髪はバサバサ、お化粧もしていなくて、見るに耐えません。そのときの恥ずかしかったこと! それ以来、見学だけのときも少しましな服に着替え、お化粧もして臨むようにしています。

 先日、初めてお稽古を受けました。師匠と直接向き合っているわけではないのに、違和感や不便は少しも感じず、師匠のいつもと変わらない熱意が画面を通してまっすぐ伝わってきます。2度目のお稽古も受けて、今は3度目に向けて自分の稽古をしているところです。

 4月中旬には師匠のお誕生日を祝って、三十数人がネット上で集まりました。全員がそれぞれにお酒などの飲み物を入れたグラスを手にして、「おめでとうございます!」とお祝いします。一人の方がピアノで「ハッピーバースデー」の演奏をしてくださって、みんなで何度も歌いました。師匠は弟子の一人一人に声をかけてくださり、さまざまな会話が行き交い、とても楽しいひとときを過ごしました。美味しそうな料理を用意して食べながら参加している方もたくさんいました。師匠もお酒を飲みながらお寿司をつまんでおられました。

 この日、私は久しぶりに着物を着ました。ほかにも二人の女性が着物を着ていました。外出する回数が極端に減って、着物を着る機会も皆無です。ネットでのお祝いパーティーで着物を着て、華やかでおめでたい雰囲気を味わうことができるとは思ってもみませんでした。師匠のお元気な様子を拝見し、お弟子さんたちともネット上ではありますが久しぶりに会うことができて、思いがけないくらいの幸福感と充実感を味わいました。