冬すみれ雑記帳

山を歩いたり、お能を見たり。

お茶(茶道)の楽しみ その2

 お茶のお稽古を楽しいと感じるのは、ほかにも理由があります。お茶室にいて、お稽古をしていると、五感が快く刺激されるのです。

 視覚。お茶室という和風空間の美しさ。畳、土壁、建具、床の間、天井。それぞれが落ち着いた雰囲気です。調湿や吸音の効果もあるらしい。

 お茶を点てるための道具は、一つ一つが伝統工芸によって作られていて、存在感を放っています。例えば水指(みずさし。お点前に使う水を入れる容器)や茶碗は焼き物、薄茶を入れる棗(なつめ)の多くは漆器。濃茶を入れる容器は焼き物で、布の袋に入れます。その布も伝統工芸の作品です。

 茶筅(ちゃせん。お茶を点てる道具)や茶杓(ちゃしゃく。お茶をすくう道具)、柄杓(ひしゃく。お湯や水をすくう道具)は竹細工。床の間に花を飾る花器は焼き物だったり金属を加工したものだったり。

 床の間には必ず掛け軸を掛けます。そこに墨で書かれた文字(たいていは禅語)の味わい(意味がわからなくても、見ていて面白い)。文字の部分を引き立てるために配置された布の魅力。

 聴覚。静かな空間にお湯がわく音(鉄製の釜でお湯を沸かします)。お茶を点てるとき、茶筅と茶碗が触れ合うサラサラという音。畳を歩くときの音。着物を着ている場合は絹ずれの心地よい音がします。聴覚が研ぎ澄まされて、茶室の外で風が吹いている音も耳に入ってきます。

 嗅覚。お茶の匂い。炭が燃える匂い。炭にくべたお香の匂い。

 味覚。お茶をいただく前にお菓子を食べます。和菓子の上品な甘さ。そしてその後で飲む抹茶のほんのりした苦味と甘味。

 触覚。お茶道具の、焼き物や漆器、竹細工、布に触れるときの感触。あいさつで畳に手を置いたときの畳の手触り、畳の上を歩くときの足裏の感触など。

 今の世の中では視覚から入る刺激ばかりがどんどん強くなってきています。お茶室では五感がバランスよく刺激されるので、本来の自分が生き返るような気がするのです。

 もう一つ、大事なポイントがあります。「五感が刺激される」と言っても、脳だけが働いているのではなく、体の動きを伴っていることです。畳の上を歩く、立ち上がったり、座ったりする、正座したまま体の向きを変える、腕や手を動かすなどです。じっとしているときも、姿勢を意識するので、筋肉は働いています。

 例えばパソコンやスマホでゲームをしていると、視覚と聴覚は絶えず刺激されるでしょうが、脳ばかりが働いていて、体はじっとしています。お茶のお稽古では脳と体の働きもバランスが取れているのです。