冬すみれ雑記帳

山を歩いたり、お能を見たり。

能「雲林院」を見ました

 一日に能「雲林院」を見ました。会場は大津市伝統芸能会館です。
 主な出演者は次の通りです。

  シテ 尉(じょう)・在原業平  味方 玄(しずか)
  ワキ 蘆屋公光(あしや きんみつ)  原   大
  ワキツレ 従者  原   陸

  大鼓  河村  大
  小鼓  久田舜一郎
  太鼓  井上敬介
  笛    森田保美

  アイ狂言  茂山忠三郎


 開演に先立って、歌人の林和清さんのお話がありました。テーマは「雲林院とはいかなる場所か」。藤原氏独裁政権下における政治的な敗北者や弱者たちの集まる「わび人の歌会」が行われた場所なのだそうです。紫式部もこの近くで生まれており、ゆかりが深いとのこと。

 いわゆる「色好み」の男たちは、決して手を出してはいけない女性に恋をして
しまう。例えば光源氏藤壺との恋。藤壺は父帝の妻であり、義理の母親でもあるのです。二重のタブーに遮られた女性に恋い焦がれ、少なくとも2回は思いを遂げている、と林さんは話されました。


 こんなとんでもないスキャンダラスな物語が上流階級の人々の間で大人気を呼び、次々と書き写され、読者を広げていったというのはすごいことですね。最近のマスコミの「不倫バッシング」に比べて、なんとおおらかなんでしょう。ほとんど呆れるばかりです。

 もう一人の「色好み」、在原業平が恋したのは次の帝の后になることが決まっていた藤原高子(たかいこ)です。人目に触れぬよう隠されていたのを業平は見つけ出し、おぶって、高槻の芥川まで逃げます。深窓の令嬢である高子はきっと、ろくに歩いたこともないほど、体力のない人だったのでしょう。

 荒れた蔵で夜明かしをした時、高子は蔵に潜んでいた鬼に食べられてしまいます。これは、異変に気付いた兄たちが二人を追いかけ、高子を奪い返したという意味だそうです。
 「女性の自由な幸せを奪い政治の道具にする藤原氏こそが鬼なのだと、告発しているかのようにも読むことができる」と、林さんのレジュメに書かれていました。
 光源氏は架空の人物ですが、在原業平は実在の人で、高子との逃避行は史実です。

 高子を失ったのち、業平は有名な「東下り」をします。都落ちですね。
 後年、清和天皇の妃になった高子は陽成天皇を生み、強大な権力を手に入れると業平とよりを戻します。数年の恋愛関係ののち、業平は亡くなります。その後、高子は寺院の若い僧侶とスキャンダルを起こし、皇后の座を追われます。
 業平との別れによって、精神のバランスを崩したのかもしれません。

 前置きが長くなってしまいました。あらすじと感想は稿を改めます。