冬すみれ雑記帳

山を歩いたり、お能を見たり。

謡のお稽古 2022年

 昨年の4月から始めた謡のお稽古。月に2回、カルチャーセンターに通っています。今年は「土蜘蛛」の途中から始まり、2月から「経正」へ進み、4月に終えました。

 入門してからここまでは、先生が謡本の一部をお手本として謡い、すぐ続けて私がその真似をして謡う、という方式でした。初めはごく短く、1行にも満たないくらいの長さから始まって、だんだん長くなり、3〜5行ほど続けて習うことになりました。

 記憶力の衰えている私にはけっこう大変! 先生のお手本が長いと、全部はとても覚えきれません。恥ずかしい思いばかりするのは嫌なので、なるべく予習をして、おおよそは頭に入れていくようにしました。

 役に立ったのはUチューブです。素人さんやプロの能楽師さんなど、数人の方が謡を公開しているのです。それをICレコーダに録音して、何度も聞いて覚えるようにしました。私が習っているような初心者向けの曲はUチューブにアップされていることが多くて助かりました。

 ところが、「経正」が終わって「紅葉狩」に入ると、教え方が変わったのです。私以外の生徒さん(20年とか、それに近い年数、謡の稽古を続けている方ばかり)と同じ方法でやっていきます、と先生がおっしゃり、ガーン! とショックを受けました。いつかこの日が来るとは思っていましたが…。

 先生が謡本の数ページを続けて謡います。すぐその後で生徒は同じ部分を謡うのです。数ページ続けてですよ! 前もって自分でお稽古して、ある程度は謡えるようになっていなくてはならないのです。そんなにたくさんの量をちゃんと理解して覚えるなんて、とても無理! と困ってしまいました。

 これまで習ったことも、ちっとも頭に入っておらず、このままではとても続けられない…と悩んだ挙句、お稽古を1回休みました。次のお稽古まで3週間ほどあったので、過去のお稽古の録音を整理してパソコンに入れて聴き直し、習ったことも整理してノートに書き出しました。これをすると、「こんなことも教わったんや!」が続出。先生はたくさん教えてくださっていたのに私はちっとも覚えていないことがよくわかりました。

 これだけでは「紅葉狩」のお稽古に備えることができません。謡本を読んでも、どう音を取ったらいいのかさっぱりわからないという情けない状態だったし、いきなり数ページを謡うなんてことはとてもできないです。「紅葉狩」はUチューブにもサビの部分しかアップされていませんでした。

 そこで、アマゾンで検索して「紅葉狩」の入ったCDを見つけて買いました。観世流のご宗家、観世清和さんが謡っているものです。檜書店という能楽専門の書店で販売されているのですが、定価で買うととても高いので、アマゾンで探したのです。

 これをICレコーダとスマホボイスレコーダの両方に入れ、家にいる時や外出中、スポーツジムで運動している時などに繰り返し聞いて覚え、お稽古日が間近になると謡本の符号を見て符号の意味を確かめながらまた覚えました。幸い、「紅葉狩」は耳に馴染みやすい旋律の部分が多いし、中身も面白くて記憶しやすかったです。

 2回目からは、まず、前回教わった部分を私が謡い、間違いを先生に直していただきます。続いて先生が次の部分をお手本として謡い、その後、私が同じ部分を謡います。毎回、復習と予習が欠かせません。UチューブやCDを頼りに、なんとかお稽古を続けています。

 「紅葉狩」を8月下旬に終え、「菊慈童」へ。9月初めに「菊慈童」を終え、「猩々(しょうじょう)」へ。11月中旬に「猩々」を終え、今は「竹生島」を習っています。「菊慈童」と「猩々」も覚えやすい旋律で、楽しくお稽古できました。「竹生島」は、まだよくわかりません。

 先輩の生徒さんたちは80代でも素晴らしい声で謡うし、Uチューブの助けを借りることなどなく自力でやってこられたのだろうと思うと、ますます尊敬してしまいます。

 毎回、教室でのお稽古前に自分でお稽古するのにずいぶん時間がかかって大変。でも、本番でなんとか謡えた時の喜びは大きいです。生徒数わずか5人の講座なので、講座そのものがいつまで存続するか心許ないのですが、私自身はなんとか来年も続けていきたいと思っています。

 謡本というのはこんな感じです。

 

 文字の右側や左側に付いているさまざまな符号のほとんどに意味があり、抑揚や音の長さが決まります。先生いわく、「符号の種類はそんなに多くないので、一通り覚えたらあとは難しくない」そうですが、符号がいくつも組み合わさるとまた意味が変わったりして、そんなに簡単ではありません。基本の音階にツヨ吟とヨワ吟の2種類があって、同じ符号でも意味が変わったりするのでますますややこしい。

 謡本のサイズは半紙判。半紙を半分に折ったものを綴じた形です。和装本の場合、一般に流通している洋装本とは判型が違うらしいです。