冬すみれ雑記帳

山を歩いたり、お能を見たり。

お茶(茶道)の楽しみ その4 映画「日日是好日」

 前の記事に載せた炭手前の動画を見てくださればわかるように、お茶の動作はゆっくりしています。一つ一つの所作をきちんと丁寧にしますし、道具を傷めないように心がけるので、バタバタした雑な動きにはなりません。これも、お茶の稽古で気持ちがしずまる理由の一つだと思います。

 今の世の中、やたらとスピードが速い。いつもせきたてられているような気がします。静かなお茶室で呼吸を整えるようにゆったりと動いていると、気持ちが切り替わり、しだいに落ち着きます。かといって、動作は遅ければ良いというわけではなく、ほどほどが肝心で緩急のリズムも大切だと教わりました。

 2018年に公開された映画「日日是好日(にちにちこれこうじつ)」。主人公(黒木華)がふとしたきっかけでお茶を習い始め、お稽古を続けて行くうちに生き方が変わっていくという物語です。見ていて、そうだよなあ、そうなるよなあと共感できる部分がたくさんありました。

 主人公は最初、いとこ(多部未華子)と二人でお茶の先生宅を訪れます。和室に通され、「少し待っていてね」と言われます。二人は部屋の中で立ったまま、珍しそうにあたりを見回します。この様子が、私にはひどくみっともなく見えました。でも、「たしかに、最初はそうだよなあ」と思い当たりました。

 つまり和室での振る舞い方を知らないだけなのです。このごろは和室のない家がほとんどですから、無理もありません。和室があっても、そこでの行儀作法を教えてもらう機会なんてあんまりないですしね。それに、二人とも若いので、気持ちがうきうきしていて、その分、体に落ち着きがないのです。お稽古を始めてからも、最初はお点前の動作がうまくできないだけでなく、心が静まっておらず、体全体がそわそわして見えます。

 主人公はお稽古を続けて、お点前を習得していきます。すると、見た目の佇まいがはっきり変わっていくのです。そわそわしていたのが、すっと落ち着いて見えます。体の動きも無駄なくしなやかになります。

 黒木華の演技はとてもうまくて、お茶の稽古の積み重ねがもたらす変化がよくわかりました。最初、和室の中で立ったままキョロキョロしていた娘さんとは別人のようでした。映画では、お茶の上達と並行して、主人公の自分の人生に対する構えもどっしりしていきますが、お茶にそこまでの効用があるかどうかは、私にはよくわかりません。

 樹木希林が演じたお茶の先生は、私が習っている先生とダブって見えました。人を受け入れる度量の大きさ。お点前の指導はきちんとしているけれど、うるさく咎めるわけではなく、いつも暖かく優しい。お茶についての知識が豊富で、質問にはいつでも的確に答えてもらえるという安心感があります。芯に揺るぎないものが感じられ、先生がそこにいるだけでお茶室にいつも程よい緊張感が保たれていました。

 お稽古ごとは、良い先生との出会いが何より大切です。人柄が良く、自分との相性も良さそうな先生に出会えたら、楽しく長く続けられます。