冬すみれ雑記帳

山を歩いたり、お能を見たり。

見事だった狂言風オペラ「フィガロの結婚」

 3月23日に大阪のいずみホールでタイトルのとおりの公演を見ました。私の素人義太夫の師匠、豊竹呂太夫が出演なさるので見ておこうと思ったのですが、期待以上に質の高い、感嘆するような出来栄えの舞台でした。

 写真→公演 ホームページより

 時代と場所は昔の京都。美人の妻がいるにもかかわらず、好色で下女にまで手をだす主人、在原平平(ひらひら)。業平の子孫だというところが笑えます。

 この人物を、文楽の人形が演じます。遣うのは桐竹勘十郎。2014年に上演されたシェークスピア原作の新作「不破留寿之太夫(ふぁるすのたいふ)」の主人公のために作られた首(かしら)に手を入れたそうです。

 この人物が登場する場面で義太夫を語るのが豊竹呂太夫。こうした滑稽味の強い作品や人物を語るのが他のどの太夫さんよりも巧みです。聴いていて、おかしくて仕方がありません。
 三味線は若手の鶴澤友之助さん。有名な「もう飛ぶまいぞ」も三味線で弾きこなし、そのセンスの良さが異なる芸能同士の融和に力を発揮していました。

 舞台で最もよく活躍するのは、下女と下男の2カップルです。この4人は狂言師が演じます。当然、セリフも語ります。
 美人の妻を演じるのは能楽師の赤松禎友さん。能面と装束を付け、美しくて悲しげな女性を存在感たっぷりに見せてくれました。

 音楽を演奏するのはスイスから来た管楽八重奏団、クラングアート・アンサンブルです。時には演技にも参加します。
 洋楽の演奏、狂言師文楽人形、能楽師の絡み合い。これだけジャンルの異なる人たちが同じ舞台で一つのお芝居を演じて、うまくいくものでしょうか?
 
 私も半信半疑だったのですが、これがなんの違和感もなく見事にかみ合って、個性的でこの上なく楽しい「フィガロの結婚」を作り上げていたのです。こんなことができるんだ! と感動したくらいです。
 ただ一部で、洋楽演奏のボリュームが大きくて狂言師のセリフのやり取りが聞き取りづらい場面があったことだけが残念でした。

 作は片山剛、音楽監修は木村俊光。脚本演出は能の笛方、藤田六郎兵衛。そして芸術監督は大槻文藏さんでした。そうそうたる顔ぶれです。
 会場は満席。こうした試みは今後も是非続けていただきたいです。