冬すみれ雑記帳

山を歩いたり、お能を見たり。

能「通小町(かよいこまち)」(大槻秀夫師三十三回忌追善能、大槻能楽堂)

 「義母の思い出」連載中(?)で書きそびれていた、能の公演の感想です。2月11日に大阪の大槻能楽堂で見ました。この日のプログラムは連吟2曲、能「通小町」、狂言「惣八」、能「砧(きぬた)」、仕舞4曲、舞囃子「融(とおる)」、能「乱(みだれ)」と盛りだくさん。その中で、能「通小町」がとても興味深かったです。あらすじを粟谷明生さんのオフィシャルサイトからお借りします。

 八瀬の里の僧が毎日木の実や薪を持って来る女の素性を尋ねると、市原野に住む姥で弔ってほしいと言い残して消えます。僧は姥が小野小町の幽霊と察し弔うと、薄(すすき)の中から小町の亡霊が現れ僧に授戒を願います。すると深草少将の怨霊も現れ、小町の成仏を妨げようとします。僧は深草少将に懺悔のために百夜通い(ももよがよい)を見せるように説くと、少将は雨の闇路を小町のもとに通い無念にも九十九夜目に本望をとげられずに果てたことを語り狂おしく見せます。そして飲酒戒の戒め、佛の教えを悟った途端に多くの罪業が消滅して、少将も小町も一緒に成仏出来たと喜び消えていく、という物語です。

・・・・・・・・・・ここまで

 前場の里女と後場の小町の霊(シテツレ)は大槻裕一、深草の少将の怨霊(シテ)は赤松禎友、僧は福王知登の皆さんでした。

 小町は絶世の美女なのですが、今回はなぜか可愛らしく見えました。深草の少将は装束が黒々としていて、亡者のような薄気味の悪い面で、登場したときから不気味な印象です。

 小町が僧に、成仏できるよう戒を授けてくださいと頼むと、深草少将は「あなた一人が成仏したら私はどうなるのだ」と小町に詰め寄り、僧には「早く帰ってください」と促します。そればかりか、「煩悩の犬となって打たるると離れじ」と謡いながら小町の袂(たもと)を取って引き止めます。この所作はリアルで衝撃的でさえありました。

 男性に裏切られた女性の激しい情念を描いた曲に「葵上」や「鉄輪」がありますが、この「通小町」では、それが逆転しています。しかも小町はというと、深草の少将の暗い怨念があまりピンと来ていないような、どこかのんびりした風情で、その取り合わせが面白かったです。

 深草の少将は雪の日も雨の夜も小町のもとに通い続けたのに結局裏切られた百夜(ももよ)通いの様子を再現して見せ、最後はお酒を口にしなかったことで二人ともに成仏するという結末。仏教の教訓を付け足したようなあっけなさでした。